エウロパの魚

光を見たことは ある? 母さんの 甘く大きな口の中で 氷の空のうめきが聞こえた 炎の城から立ち上る無数のあぶくが うめきの空をゆっくり泳いで やがて ささやく声のように消えた ああ ここでは にじむ光が空を塞いでいるのだ 俺はどこにいるのだろう 星の聞…

ツイスター

肌よりちかい場所にうずきを覚えて 見わたすかぎりはひとりの階段 氷の中にとじこめられた 渦巻く白い光を浴びながら 音をさがそう 声をさがそう 遠いむかしの 歌をさがそう だが 君たちはどこへ行くのか 地平線で一列の雲が沸騰し 意思のない群衆はおびえだ…

ATGC

あの屋久島で 語る者について語ろう 静かな咆哮が 甘い微かな香になり 水平線も眠るころ ブルートレインの 時計刻みの 無感動な心音も あいまいな夢に眠るころ 陸はいまにも 動き出しそうだった 思念の運ぶ 分子の航路を飲み干せば 星々は並びを変えて いず…

少年の死

砂岩が無限に打ち寄せて 森は終わり 冷酷な月がはじまった 錆付いた天球にかけられた 自殺念慮の信号灯が われわれの足跡を照らし出し おまえの血もまた立ちどまる どこまでも沈む 永遠の深海底 音のない砂の底 おまえはおまえの死をしんだ 目をつぶされ 耳…

虹のゲート

晴れて虹が見えたりしたので、たまには明るい詩も書いてみようと思った。 追記:YAZIRUSHIさんの旦那様が虹の写真を送ってくださいました。文章の最後に貼らせていただきました。どうもありがとうございます!***

純粋であることは異端である

君はすこし読心術が過ぎるのだ 人の心に本当のもの(笑)なぞ求めるな あらゆる人間関係にはすべて 茶番の要素が含まれている 他人にはこうだろうと思う通りを思わせよ こうあれよと願う通りにあらしめよ それで大体うまくいく 本当のもの(笑)なぞどうでも…

魔王

誰か 僕を殺しにくる勇者はいないのか 神聖な暗殺者よ ここにはおまえが捨て置けない 時空のねじれがある 次元のゆがみがある 世界の裏側からひびを入れ 黒い光を射し込ます 人間の法則への 裏切りがある 誰かいないのか 真実と愛を体現し 美と健全を兼ね備…

もうやめよう

もうやめよう 人に甘えるの もうやめよう 愛されたいと思うこと もうやめよう 報われたいと願うこと もうやめよう 認めて欲しいと 人前で小さく呟くの もうやめよう お節介を焼いて 人に好かれようとするの もうやめよう 役に立てば愛される という思い込み …

溶解

限りなく海に近い ねばつく川の上 鉄の橋が低く伸び 夏の終りの腐臭がただよう ここはずいぶん静かだな ただ あちこちの高いところで 灯火がまぶしく ビルの稜線を描いている それだけが恐ろしい 垂直の稜線 無情な論理の断崖 僕は論理が恐ろしい 僕の論理は…

今という名の病

手段と目的の混ざり合った水平線へ向けて 水上バスが航跡を引くのが見えた 擬古的様式のビルの足元を俺はさまよい 神の巨大な墓標でもあるかのような そういったビルの 影絵のうごめき 光が切り取る闇と 闇が切り取る光とを 見た もはや無限の砂山と化した空…

まどろむカラスの黒い夢

都会のまんなか お堀のほとりで 僕はやはり カラスを脱っせずにいた ずるがしこくて うすぎたない そんな彼らに対する共感は たぶん カラスよりずっと多い人間への好意よりも ずっと的を得たもののように思われた そんな僕にも たまには電話がかかってくる …

夜の一片

夜の街をひとりで歩くという 気味の悪い習慣を 僕はまだ捨てることができない 側溝を這うネズミのように 夜の中で暮らしていた頃を 歩きながら思い出す うつろな胸や 軽く運ばれる足の甲に その頃の夜を一片 しまい込んだままでいる いつだって夜明け前に見…

道がみえる 重苦しい空の中央に 不意に まぶしい傷口が開くときのように 思いがけず見出される ひとすじの道がある春 午後二時の大気の下で ひとすじの道はまっすぐに伸びる 老人がひとり 杖を突いて立ち 乾いた水田に長い影をおとす 干からびた身体を 淡い…

緑の記憶

ゆるやかな地面の中で 眠っていたのは いつのことだったろう 一瞬のきらめきの 運命的な反復が 永遠をかたどるような そんな夢を見ていたのは あれからもう 何夜も経つんだ 濃密な 灰色の空気が 緑の肌に 絹布のように巻きついて 薄い皮膚の 内側へと 酸素を…

ラストノート

扉を開けばからだを包む イミテーションの芳香 シューマンは オルゴールアレンジされているし 音を垂れ流すのは ピンク色の韓国製コンポだし 人形のために作られたような 小さな木目調の丸テーブルは 実際は集成板 造花の百合が白々しく 下品にそしてエロテ…

十九万六千八百三十三次元のモンスター

横浜の 陰で濡れそぼった坂道を 異人たちの霊がよぎっていく カラスアゲハが デジタル信号みたいに 羽を明滅させて 緑色のフェンスに軌跡を絡め 夕暮れを抱え込んだ崖を目指して 消える 僕は立ちすくんでいた 誰からも忘れ去られた 地下水道の多段滝が ごく…

正義はいずれ表現されねばならぬ

ゆがんだレンズで 店長のまぶたは融けて ビルに穿たれた 無数の暗い窓からは 一千億の眼がのぞくのさ ラジオの立てる 断定的な音波 ひどく硬質な文言たちに 店長は融かされていくのさ 誰も見たことのないような 目尻からこめかみへ伸びるしわ 空気をちぎるよ…

失われた世紀末

九月の空を切り分ける 団地と団地のはざま どの部屋の 灰色の窓も 失われた世紀末を 閉じ込めていて 死んだ夏の臭いが たちこめる そんな 巨大な音叉のはざまで あの振幅は共鳴を始めて 僕の頭蓋という 小さな共鳴胴にも ある戦慄をもたらすんだ あの振幅は…

四行詩習作

風がほしい 体の熱をはぎとって 背中の帆をはらませる 一陣の風がほしい

四行詩習作

扉の向こうで肉食竜は息を殺し 夜が見せかけの幸運を瞬かせる おれはずっと探し続けている 誰にもならずにいられる方法論を おまえの子午線を寸断する抜け落ちた空隙が見える おまえの錆びきった弦の立てる大気とのうなりが聞こえる 斜陽と綿埃の中にうずく…

四行詩習作

手に入らなかった思い出に背を押され 灰色にひび割れた道をたどる 坂の上へと転がっていく軽い声を 僕はただ見送るばかりだったのさ アンテナの檻と電柱の林 引き伸ばされた午後の青白い夕方 そういった日々の隙間に心をねじ入れて どんな化石を探しているの…

墜落プログラム

粘性の闇と脂ぎった照明 鳥が落ちてくる感覚に見舞われて 俺は地面に膝を突く ここは他人の内臓 その内側だ 岸壁に這うパイプの群に ひどく散文的なコンクリートの起伏 腰掛けるところなどどこにもない凹凸 鳥が落ちてくる感覚は どこからもたらされたか 狭…

カタパルト

午睡を終えた空はきらめき 新宿を高く高く持ち上げていく 空間を切開してかたどったような 天を刺す鏡の部屋と 底をなくしたダンジョン 夜を失った地下が同居する 未定義の言葉たちが地の亀裂から漏れあふれ 二本のレールの上を反復し始める 発見済みの言葉…