夜の一片

夜の街をひとりで歩くという
気味の悪い習慣を
僕はまだ捨てることができない
側溝を這うネズミのように
夜の中で暮らしていた頃を
歩きながら思い出す
うつろな胸や
軽く運ばれる足の甲に
その頃の夜を一片
しまい込んだままでいる


いつだって夜明け前に見える
曖昧な紺色の空
青ざめた神経質な顔つき
震えて縮こまり
小鳥のように泣いている
そんな夜の一片を
うつろな胸や
軽く運ばれる足の甲に
しまい込んだまま
僕は君を探していた


君を探していた
曖昧な濃紺の空の下
夜明け前のような震えで胸を埋め
街から街へ
幻のように僕は歩いていく
日比谷 桜田門 永田町 赤坂


すれ違う人々が映画となって
僕の視界に映り込む
スクリーンの人物が
観客には影を落さないように
僕と人々は
重ならずにすれ違っていく
異なる次元の上を滑りながら
僕は君を探していた


君を探していた
僕は人々の影を踏めず
人々は僕の影を踏めない
街から街へ
幻のように僕は歩いていく
四谷 神楽坂 飯田橋 九段下


自分がどこへ行こうとしているのか
僕はまだ知らない
自分の生活がいったいどこへ辿り着くのか
まるでわからない
僕は君を探していた


君を探していた
うつろな胸や
軽く運ばれる足の甲に
夜の一片をしまい込んだまま
街から街へ
幻のように僕は歩いていく
異なる次元の上を滑りながら
幻のように僕は歩いていく