2007-08-01から1ヶ月間の記事一覧

緑の記憶

ゆるやかな地面の中で 眠っていたのは いつのことだったろう 一瞬のきらめきの 運命的な反復が 永遠をかたどるような そんな夢を見ていたのは あれからもう 何夜も経つんだ 濃密な 灰色の空気が 緑の肌に 絹布のように巻きついて 薄い皮膚の 内側へと 酸素を…

ラストノート

扉を開けばからだを包む イミテーションの芳香 シューマンは オルゴールアレンジされているし 音を垂れ流すのは ピンク色の韓国製コンポだし 人形のために作られたような 小さな木目調の丸テーブルは 実際は集成板 造花の百合が白々しく 下品にそしてエロテ…

十九万六千八百三十三次元のモンスター

横浜の 陰で濡れそぼった坂道を 異人たちの霊がよぎっていく カラスアゲハが デジタル信号みたいに 羽を明滅させて 緑色のフェンスに軌跡を絡め 夕暮れを抱え込んだ崖を目指して 消える 僕は立ちすくんでいた 誰からも忘れ去られた 地下水道の多段滝が ごく…

正義はいずれ表現されねばならぬ

ゆがんだレンズで 店長のまぶたは融けて ビルに穿たれた 無数の暗い窓からは 一千億の眼がのぞくのさ ラジオの立てる 断定的な音波 ひどく硬質な文言たちに 店長は融かされていくのさ 誰も見たことのないような 目尻からこめかみへ伸びるしわ 空気をちぎるよ…

失われた世紀末

九月の空を切り分ける 団地と団地のはざま どの部屋の 灰色の窓も 失われた世紀末を 閉じ込めていて 死んだ夏の臭いが たちこめる そんな 巨大な音叉のはざまで あの振幅は共鳴を始めて 僕の頭蓋という 小さな共鳴胴にも ある戦慄をもたらすんだ あの振幅は…

故郷

「そこへはいっていける場所というのがある。また、出ていける場所というのもある。しかし、出ることもはいることもできる場所が、もし見つかれば、唯一のその場所こそ故郷ということになる」 ――ジョージ・マクドナルド「リリス」 八王子に住んでもう5年目に…

四行詩習作

風がほしい 体の熱をはぎとって 背中の帆をはらませる 一陣の風がほしい