ATGC

あの屋久島で
語る者について語ろう
静かな咆哮が
甘い微かな香になり
水平線も眠るころ
ブルートレイン
時計刻みの
無感動な心音も
あいまいな夢に眠るころ


陸はいまにも
動き出しそうだった
思念の運ぶ
分子の航路を飲み干せば
星々は並びを変えて
いずれ地面を割るだろう
意味の大海で群れ踊る
小さな鰭 鰓
海水に浸かっていても込み上げる
この渇きは なんだ?


ああ 僕も生まれてみたかった
雷雲の真似をして
赤土をこねあげて
形を作ってみたかった
だが 致命的な描線が
僕を記号に押しとどめるのだ
ありえたはずの
命の近似値
生に似たものとしての
ATGC


言葉だけの朝がやがては訪れ
終わらない調弦が待っている
無数の交叉
無限の試行
限りなく
生に似たものとしての
ATGC
ありえなかったはずの
意味のまぼろし