今という名の病

手段と目的の混ざり合った水平線へ向けて
水上バスが航跡を引くのが見えた
擬古的様式のビルの足元を俺はさまよい
神の巨大な墓標でもあるかのような
そういったビルの 影絵のうごめき
光が切り取る闇と
闇が切り取る光とを
見た
もはや無限の砂山と化した空
あらゆる人間が足跡を刻み
登っていくばかりの空
それが 今という名の病の前景だった


気づけば俺は 夏空の誘惑に負けて
空の色を確かめるために
矛盾を体現せんがために
武蔵野の小さな川のほとりに
立っていた 何も持たずに ひとりきりで
城塞と化した住居の光が
歩くべき1兆マイルの道を描くと
俺は 自分が誰も愛していないことに気づいた
1兆マイルを歩くべきこと
本当の孤独のほとりに立ったことに
恐怖した
五線譜に淡々と音符を記すミニマム・ミュージック
たった2つからなる反復和音のように
足跡だけがずっと伸び行く
それが 今という名の病の背景だった

(2003年作)