エッセイ

故郷

「そこへはいっていける場所というのがある。また、出ていける場所というのもある。しかし、出ることもはいることもできる場所が、もし見つかれば、唯一のその場所こそ故郷ということになる」 ――ジョージ・マクドナルド「リリス」 八王子に住んでもう5年目に…

白いつばさたち

なかなか雨の降らない曇り空の下、いつものように川沿いの歩道を散歩していて、ふと思い当たった。 最近空を飛んでいないな。 もちろん、私自身は空を飛べない。飛行機やグライダーにだってそれほど縁があるわけでもない。それでも、子供の頃はもっと空に近…

リリスの下僕

リリスについて、もっと書いてみようと思う。私はリリス的な女性に強く惹かれるところがあるのだ。 私が好む女性は、まず邪悪であることが挙げられる。犯罪やその他の罪を犯しているという意味ではなく、自分の内側に暗い核を抱えているような人のことだ。 …

物語の洞穴

雨が止むと午後の傾いた陽が射した。くすんだ商店街は光を浴びて急に生き生きとし始める。遅い昼食を摂るために出掛けた私はふと実家近くの古本屋のことを思い出す。物静かな女性と繋がれていない老犬が番をしていた、あの雑然とした古本屋のことを。 まった…