ヱヴァとエヴァ
オタクなので同じくオタクのハッちゃんと「ヱヴァンゲリヲン新劇場版:破」を観て来た。
※第一種ネタバレ警報発令中※
巨大ロボットを操る少年少女たちの前に最強の敵あらわる!
主人公の少年は色々あってイジけて逃亡。
脇役が変身して挑むが負ける。
ヒロインが決死の自爆を敢行するが負けてしかも捕まる。
その惨状を目にした主人公が引き返して戦いに復帰。
愛と勇気と根性で敵を撃破! ついでにヒロインも救う。
という話だった。
色んな人が書いているけれど、娯楽作品としてのレベルは確かに上がっている。映像的にも、ストーリー的にも完成度は高くなったと思う。
ただ、僕達がリアルタイムで観た「エヴァ」の緊張感みたいなものは、もはや失われていた。それは僕達が成長して大人になったからだろうか?
「エヴァ」の何が凄かったのかと言うと、あまりに多くの情報と謎とで隠された物語が、少しずつ分かってくる「感じ」があったことだ。僕達の送っている空虚な日常と地続きになっている場所で、何か秘密の計画が行なわれていて、それに僕達もどうしようもなく巻き込まれて、何か恐ろしく神聖なものが出現する、という予感が、凄かったのだと思う。
「それから、それから」という期待感を担うものがストーリーだとしたら、初期の「エヴァ」ほどストーリー性のある作品はあまりない気がする。
しかし、初期の「エヴァ」では、「それから」の最後をどうしようもなくなってしまった、とよく批判される。僕達が辿り着くはずの恐ろしく神聖なものを描ききれなかったのだ。
テレビ版の最後では、シンジが自分自身を認めて「僕はここにいていいんだ!」と叫んで終わる。反面、映画版ではアスカに「気持ち悪い」と呟かれて終わる。テレビ版と映画版でこれほど対照的なラストになる点で、どうしようもなくなった感が強い。
どうして「エヴァ」はあんなラストにしかできなかったのか?
当時は良く分からなかった。だけど、今なら少しは分かる気がする。
僕達日本人にとって、恐ろしく神聖なものがなかったのだ。そして、僕達日本人にとって、穏やかな日常生活こそ神聖だったのだ。神や、より大きなものとの合一、世界の理解、止揚、そんなものは要らなくて、環を描く永久の日常こそ神聖だったのだ。
だから、テレビ版の最後は、シンジがケガレをそそぎみそぎを終えて世間=日常生活に受け入れられる、というラストだった。映画版は、それの裏返しではなかったか? 日常を否定した結果としての孤独とケガレ……。
中学生の頃から今まで色々本を読んで、「人類補完計画」的なアイディア(不完全な人間の補完)が、エヴァ独自のものではない事が分かってきた。 SFではむしろ古典的なアイディアで、たとえば「幼年期の終わり」や「ブラッド・ミュージック」がそうだ。当然庵野監督も読んでいるだろう。
それら先行作品では、「人類補完計画」は常に完成している。何の迷いもなく、人々は非情にすべて裁かれて、選ばれたものが新しい道へと昇っていく。庵野監督にはそれができなかった。日本人にはそれができないのかもしれない。
もちろん、それは良し悪しの問題ではないと思う。何か上のレベルがあって、そこに我々(の一部)が昇っていくという考え方自体が、キリスト教的なドグマに過ぎない。世界はもっと水平分散型のものだという気もする。
ただ、西洋的な物語(主人公が成長し、神聖なものに近づく)の世界とは、どうしても馴染まないで、中途半端になってしまうのかもしれない。
全然話は変わってしまうけれど、「日本語が亡びるとき」で有名な水村美苗が「日本語では本格小説が書けない」と言ったのは、もしかしたらその辺りに原因があるのかもしれない。
そういえば夏目漱石も話を終わらせられなかった人だな、などと色々思うところはあるけれど、エヴァの話なのでこの辺りで終わりにする。
追記
今日は長崎原爆忌。
64年前は毎日が使徒襲来だった。しかも、要塞都市はなく、エヴァもなく、相手は同じ人間だったのだ。
いまの歳になってエヴァみたいなアニメを見ると、使徒襲来のとき、みんなちゃんと逃げてるのかな……とか、あのぶっ壊された戦艦のひとつひとつに何百人も人が乗ってるんだよな……なんて事を思って純粋に楽しめない。
そして、シンジが意外に正常な感覚の持ち主であることに気づく。無理やりロボットに乗せられて、しかも友達と戦わせられたりして、シンジはそれに必死で反発する。
中学生の頃は「シンジなにやってんだよ! ちゃんと言うこと聞けよ!」という気分になった。今になって思えば、子供をそんなにしてまで戦わせる義理なんて世界のどこにもない。碇ゲンドウやミサトさんはひどい。昔で言う学徒出陣で神風特攻隊なのだ。
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