日記

 猛暑の最中、新調したシアサッカーのジャケットを着て出掛ける。ちゃんとしたジャケットなので当然長袖だ。Tシャツ一枚でいるよりは暑いけれど、少しでも風があれば割と涼しい。見た目も涼しげ。体型が貧弱でTシャツとか似合わない僕にはなかなか良いアイテムだ。今年の夏はこれで乗り切ろう。

 ちょっと用事があって、銀座から新橋まで歩いた。途中、ガード下の近道を通り抜けていった。閑散とした地下街だった。まっすぐな道の左右にバーや床屋が軒を連ねていたけれど、どれも灰色のシャッターで店先を閉ざしていた。自分の足音が低い屋根の下で高く鳴り響いた。どこかで機械が唸っていた。電気のメーターばかり生々しく動いているようだった。
 大破壊後の都市を舞台にしたシューティングゲームを僕は思い出した。今にも脇道から凶暴なモンスターが飛び出してきそうだった。いや、こんな人気のないところを派手な格好で歩いている僕こそモンスターに見えるかもしれない……。

 新橋に辿り着いた後に浅草へ向かった。ライオンビルという戦前からあるビルで黒赤ちゃんのライブがあって、それを聴きに行ったのだった。
 浅草に来たのは実は初めてだった。出掛ける前にわざわざ地図をプリントアウトしたのだけれど、うっかり忘れてしまっていた。地図の記憶を呼び覚ましつつ、初体験の浅草界隈を歩き回った。雷門もろくに眺めずに、ひたすら古いビルを探した。
 一階に大きな窓のある白いビルがあって、中は古びた四角い木製テーブルを並べたカフェになっていた。面白そうなところだな、と思って店の入り口を見ると、見覚えのあるポスターがあった。なんとそこが探していたライオンビルだった。店に入ると、店員さんがライブ会場は三階ですと教えてくれた。

 ライブ会場は、ところどころ塗装の剥げている壁に四方を囲まれた無機質な部屋だった。小さな窓がいくつか穿たれていたけれど、どれも白いブラインドで閉ざされていた。年を経た白で埋め尽くされている部屋で、僕は森岡書店を思い出した。そういえばあそこも古いビルだった。ライオンビルの方は、普段はテレビなどの収録スタジオになっているらしい。
 幸いなことにライブはまだ始まっていなかった。用意されていた丸椅子に座ってりんごジュースを飲みながら開演を待った。観客は二十人ほどいたと思う。場所のせいか、普段訪れる観客より年齢層が高めだと見受けられた。

 やがてメンバーが階段から現われた。今回はアコースティックライブで、松野さんと乾さんはそれぞれアコギを、ドラムのチャボさんは手ぶらで席に着いた。ベースの矢澤さんはいつもどおりのエレキベースを使っていた。チャボさんはドラムセットなしでどうするんだろう……と思っていたら、腰掛けていた四角い箱を叩いてリズムを取り始めた。普段のドラムに勝るとも劣らない迫力! 凄いなあと思った。
 午後三時からの七十分という割と長めのライブだったので、途中に気楽なMCを挟みながら進んだ。乾さんがまたしてもいじられていた(笑)。
「川辺の静寂」や「レスモンティー」が、アコースティックで聴くとなかなか新鮮だった。個人的に大好きな「満月公園」も演奏されて良かった。今回特にノリが良いなと思ったのが、アンコールの「風邪引きの恋人」だ。この曲の新しい可能性を聴いた気がした。

 ライブ後にビルの二階で特典ポスターの受け渡しとCDの物販が行なわれた。ポスターにサインを貰っている人がいたので、僕も真似して貰うことにした。ついでにプライベート用のカエル手帳にも四人分しっかりと書いてもらった。ポスターは、いつの日か価値が上がるまで貼らずに永久保存する(笑)。

 帰り道、水上バスの乗り場が見えて、久しぶりに乗ってみようかと思った。だけど暑さの中歩き回っていたせいで疲れていたのでやめた。
 水上バスは料金が高めだけど、お台場や国際展示場近辺を回ると結構楽しいのでオススメだ。夜に乗るとレインボーブリッジ周辺の夜景も眺められる。カメラ持参で乗ってみると面白い。