7/2(序)

七月二日 夜

 仕事帰りに高円寺で途中下車して、黒赤ちゃんのライブを観に行った。
 ちょうどギター担当の乾さんの誕生日で、ライブも黒赤ちゃん主催の誕生祭という趣旨だった。
 仕事のトラブルのせいで会社を出るのが予定より遅れてしまった。それで、開演から一時間半ほどの頃にようやく会場に辿り着いた。共演者が「黒赤ちゃんが自信を持ってオススメできる音楽の良いバンド」ばかりだと聞いていたので、黒赤ちゃん以外の共演バンドも楽しみにしていた。しかし、着いた時には既にEDo‐REPORTの演奏の終盤に差し掛かった頃だった。
 EDo‐REPORTは、ピアノ・ベース・ドラムそしてヴァイオリンというカルテット(?)のバンドだ。僕が聞いたのは、爆発しているのだけれどそれがとても美しい、壮大な花火のような楽曲だった。ドラムの五十嵐公太さんは以前JUDY AND MARYのメンバーだったという。
 その次はクノシンジさんの演奏だった。ソロによるギターの弾き語りで、ギターも歌声も少しもぶれず、滑らかに語りかけているような趣があった。外見通りの爽やかなポップスが多くて、聴いていてとても心地良い。
 その次が黒赤ちゃんだった。今回は乾さんの誕生祭ということで、乾さんによるセットリストの選択が行われたそうだ。「朱の月」や「川辺の静寂」など、個性のある楽曲が多かった。プレゼントの笠(ベトナムの農家がしているようなもの)を被って熱演する乾さんや、性格もO型になりつつあるらしいボーカルの松野さんの壊れぶりが良かった。松野さんは、長い間自分の血液型をB型だと思い込んでいたが、最近の精密な検査でO型だということが判明してしまったらしい……。
 アンコールまで全て終わった後、黒赤ちゃんのメンバーや知人に挨拶をして帰り道に着いた。
 夕食を摂るために途中で小さな定食屋に寄った。ハンバーグを中心とした定食を扱っている店で、中年男性と若い女性の二人が店員として働いていた。中年男性はちょうど賄いの食事中だった。食器を洗っている若い女性は、日本人だったけれどジャズやソウルを歌っていそうな雰囲気のある人だった。黒人女性がよくしているように、つやのある髪を後ろで一つにまとめて留めていて、やや太り気味だった。
 僕はハンバーグとメンチカツの付くCセットを頼んだ。ナイフとフォークを使って食べた。なぜか何度もナイフを落とし、そのたびに大きな音を立ててしまった。
 客はしばらく僕ひとりだった。女性店員と男性店員が喋っているのが良く聞こえた。二人とも声がやや大きめだった。男性店員は女性店員に学校での様子を聞いていた。どのくらいの年齢の人間がいるのか、という問い掛けに、女性店員は、社会人の人も多いと答えていた。介護の資格などを持っている人がキャリアアップのためにやってくると言う。介護からのキャリアアップというと看護学校か何かかな、と僕は思った。でも女性店員のような人に看護されたくないなあ、と失礼にも思ってしまった。
 やがて僕はハンバーグを食べ終わって、店を出て帰路に着いた。その時は、翌々日に看護師のお世話になってしまうとはまったく思わなかった。