二葉亭四迷「浮雲」感想

 文三非コミュであり非モテだ。そして中二病をこじらせ、ニートになってしまう。


 クソ真面目で融通が利かず、頑固でプライドばかり高く、お勉強は得意だが行動することは苦手。そんな社会不適格な文三は、コミュニケーション能力の不足、いわゆるKYにより職を失い、養ってもらっている叔母宅での立場も同時に失う。さらに、自分と結婚してくれるものと勝手に確信していた従姉妹のお勢は、文三よりずっと甲斐性のある同僚の男になびき始める。
 文三は自分自身を高く評価しすぎて、具体的な行動を起こす事ができない。行動して何かを変えようという気持ちになれず、ただひたすら周囲に変化を要求する。文三の価値観では、悪いのは周囲であって自分ではないのだ。自分を変える糸口をつかめないまま、課長と衝突し、叔母と衝突し、同僚と衝突し、お勢と衝突し、ひたすら堕ちていく。そうして堕ちていく最中に、小説は突然終わってしまう。
 非コミュでも非モテでもない空気の読めるコミュニケーション能力を備えた一般の方が読まれた場合、どうしてこの作品はここまで酷薄なのか、陰惨なのか、いぶかしく思うかもしれない。真面目で不器用な青年が挫折を乗り越えて成長するのが普通の筋書きではないか?
 だが、これこそが本当であり現実なのだ。
 文三のような人間が救われるのはやはり「お話」の中だけであり、現実の社会で彼らが本当の尊敬や歓迎を受けることはきわめて稀だ。現実世界で文三はただひたすら敗北する。彼らは必敗の法則を背負って生きるほかない。そのリアルを、この小説はえぐり出しているのだ。

浮雲 (岩波文庫)

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