ディアスポラ

 ディアスポラというぶっ飛んだハードSF小説をこのまえ読んだ。夢中になって読んだ。

 どんな話かと言えば――(ネタバレ注意)


 西暦30世紀、肉体を捨ててプログラムと化した人類が地球近傍でのガンマ線バースト発生を予知する。地上にはまだ肉体のままの人類が生き残っており、バーストが起きれば未曾有の大災害となる。プログラム人類は事前に警告を発するが、肉体人は結局滅びてしまう。宇宙に未知の危機があることを悟ったプログラム人類は、自らのコピーを宇宙船に乗せて生き残りの道を探る。別の太陽系でカーペット状の奇妙で鈍重な生物を見つけるが、実はそれは複雑な生体コンピューターで、内部には16次元の仮想空間が広がっていて、イカのような生物が乱舞していた。また別の星は何故か重い同位体だけで惑星が作られていた。同位体の余分な中性子には、別の知的生命体からの重大なメッセージが書き込まれていた。あと1000年でガンマ線バーストによって地球が滅亡するという。さらに、その中性子は別の宇宙へ通じるワームホールとなっていた。中性子を書き換えた「トランスミューター」を追い、生存の道を探すために人類はワームホールを抜ける。ワームホールの先の宇宙は6次元であり、すぐ近くに6次元生命の住む6次元惑星があった。そこにはヤドカリのような極めて安定した生命が住んでいた。彼らはトランスミューターを知っており、さらにまた別の宇宙へ向かうワームホールの在り処を教えてくれる。ワームホールを抜けた先は4次元の宇宙だった。その宇宙に入るや否や、謎の知性体「スターストライダー」がアクセスしてきて、銀河系全体がバーストにより滅亡することを証明し、この宇宙に避難することを勧める。既に6000もの文明がこの宇宙には避難していた。だが、トランスミューターはここに留まらず、別の宇宙を目指して旅立っていったという。人類は3つ目の宇宙に避難することで生き延びる。2人の探索者はここに留まらず、トランスミューターを追ってさらに別の宇宙へ旅立つ。トランスミューターの遺物を辿って267904176383054個の宇宙を潜り抜けた末に、足跡は途絶える。その宇宙には何も無かった。いくつもの宇宙に散らばった遺物は、トランスミューター自身を象った彫刻だった。探索者の1人はそこで自身を消去し、もう1人は別の生命と数学的真実を探し続ける。

 ……というような話だった。

 たぶん今世紀(もちろん21世紀)最高のSFだと思う。普通のSF小説の100冊分くらいのアイディアとイマジネーションとネタで満ちている。だから当然万人受けはしない。
 そもそも、小説としての面白さはかなり犠牲にされている。小説とSFは全然別のものだと僕は思う。だからこの作品は小説として評価してはいけない。
 ただ、理系の人には是非読んで欲しい。理系でよかった!と心底喜べると思う。

ディアスポラ」にはなんだか不思議な優しさがあって、他の星を侵略したり生命を殺すようなことは極力避けている。何しろ探査機はミリメートル単位で、それを着陸させることにすら生命に影響を与えるかどうかで数十年議論したりする。そうして、みんな恐ろしく寛大だ。

 理系というといかにも理詰めで非情だというイメージがあるけれど、そう思う事こそ非情なのかもしれない。科学的合理精神は、意外に優しく控えめなのだと思う。優しく控えめで、躊躇なく他者を認められることが、きっとどこまでも先に進むための必須条件なのだ。

ディアスポラ (ハヤカワ文庫 SF)

ディアスポラ (ハヤカワ文庫 SF)