細江英公写真展「La marionette de Paris」&ボードレール詩作品朗読会

 6月13日にいつもの森岡書店で写真展と朗読会に参加したので、その感想を書こうと思う。色々あって遅くなってしまった……。


 展示されていた細江英公さんの写真は、パリで撮られた白人女性と黒人男性のヌード写真だった。
 何でも、細江英公さん本人のもとにモデルの女性が手紙を書いて、「自分を撮って欲しい。どんな要求にも応じるから」と頼み込んだとのこと。細江英公さんはその頼みを聞き入れて女性と会い、ヌード写真を撮った。そういう奇妙な経緯のある写真が七つ、森岡書店の真っ白な壁に飾られたのだった。


 写真はモノクロで、ぎらぎらと光る黒人男性の肌や筋肉と、透き通ってやわらかい白人女性の肌の対比がとても美しかった。乳房を掴んでいたり、下腹部を押さえつけていたり、文章でポーズを描写するとなんだかいやらしいけれど、実際にはそんな下らないいやらしさを感じさせない、凄い作品だった。
 裸体からそういう変なフィルターを剥ぎ取って、身体や動きの美しさを露出させているのだと思った。まるでギリシャやローマの彫刻のように見えて、だけど写真なのだからあくまで現実にある肉体でもある。現実にある肉体なのだけど、カメラという眼を通すことで、現実にありがちな生々しい余計な視点が排除されて、本質的な美しさが表れてくる。写真家の方々の作品を見るといつも思うけれど、本来現実を写すだけのカメラをどうやって使えばそういうことができるのか、とても不思議だった。
 実際に展示されていた写真は、森岡書店のWebサイトの「過去の展示」ページで一枚だけ見られると思う。

http://www.moriokashoten.com/?pid=14367279

 そんな七つの作品に合わせて朗読家の岡安圭子さんが読んだのは、ボードレールの詩作品だ。「悪の華」から「あまりに陽気なる女に捧ぐ」・「月の悲しみ」・「猫」・「告白」・「聲」・「香水瓶」、「巴里の憂鬱」から「月のめぐみ」。写真に合わせて七作品をピックアップされたとのこと。展示されていた写真たちにぴったりの官能的な詩ばかりだった。
 とりあえず「猫」をちょっと引用してみる。多少は雰囲気が分かると思う。

(きた)れ、美しき猫よ、人恋うるわが胸の辺(へ)に、
  汝(な)が趾(あし)の鋭き爪(つめ)は、隠せかし、
かくてわれをして溺(おぼ)れしめよ、鉄と瑪瑙(めのう)よりなる
  美しき汝(な)が眼(まなこ)のうちに、

(な)が頭(こうべ)、なよやかなる背すじかけ、
  わが指のしずしずと撫(な)でさするまに、
(てのひら)のいつしかに、快く汝(な)が体(たい)のエレキを享(う)けて、
  酔うほどに

堀口大學訳「悪の華」(新潮文庫)所収「猫」冒頭二連

 こんな感じでダークかつエロティックな詩が多かったのだけれど、それを岡安さんの優しく上品な声と会場の空気とが洗練していた。岡安さんの声も、写真家のカメラと同じようにテキストの読み方や視点を教えてくれる。

悪の華 (新潮文庫)

悪の華 (新潮文庫)

パリの憂愁 (岩波文庫)

パリの憂愁 (岩波文庫)

薔薇刑―細江英公写真集

薔薇刑―細江英公写真集

http://www.okayasukeiko.com/hp/index.html
細江英公写真芸術研究日誌
http://www.moriokashoten.com/